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高齢者虐待防止マニュアル

2026/07/11

第1章 高齢者虐待の定義と種類


 高齢者がその人らしく住み慣れた地域で安心して安全に暮らすことができるよう、高齢者虐待の
防止と虐待を受けている高齢者の保護のための措置、また高齢者を支える養護者の負担軽減を目的
として、「高齢者の虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」
が平成18年4月1日に施行されました。


1.高齢者の定義

 高齢者虐待防止法では、高齢者を65歳以上の者と定めています。また、養護者を「高齢者を現に
養護する者であって、養介護施設従事者等以外のもの」と定めており、具体的には、高齢者の介護や
世話をしている家族・親族・同居人等が考えられます。
 「高齢者虐待」とは「養護者による高齢者虐待及び、養介護施設従事者等による高齢者虐待」と
定めています。「虐待」というと、叩く・蹴るなどの暴力的な行為が思い浮かびますが、虐待にあた
る行為はそれだけではありません。
 「高齢者虐待防止法」では高齢者への虐待として「身体的虐待」「介護・世話の放棄・放任(ネグ
レクト)」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つを挙げています。
 虐待をする側もされる側も、虐待だと自覚していない場合が多いのが現状です。どのような行為
が虐待にあたるのかしっかり認識しておく必要があります。

ⅰ 身体的虐待 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
ⅱ 介護・世話の放棄・放任(ネグレクト) 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の
同居人による身体的虐待、心理的虐待、性的虐待行為と同様の行為の放置
当用養護を著しく怠ること
ⅲ 心理的虐待 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著
しい心理的外傷を与える言動を行うこと
ⅳ 性的虐待 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為を
させること
ⅴ 経済的虐待 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその
他の当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること

2.虐待の種類およびその内容と具体例
虐待の種類 内容 具体例
身体的虐待 ①暴力的行為で痛みを与える、身体に
 あざや外傷を与える行為
②本人に向けられた危険な行為や身体
 に何らかの影響を与える行為
③本人の利益にならない強制による行
 為によって痛みを与える、代替方法
 があるにもかかわらず高齢者を乱暴
 に取扱う行為
④本人の行動を制限する、外部との接
 触を意図的、継続的に遮断する行為
①平手打ち、殴る、蹴る、つねる。
②本人に向けて物を壊す、投げつける。
 刃物を近づける、振り回す。
③医学的に基づかない痛みを伴うよう
 なリハビリを強要する。移動させる
 ときに無理に引きずる。無理やり食
 事を口に入れる。
④身体を拘束し、自分で動くことを制
 限する。外から鍵をかけて閉じ込め
 る。中から鍵をかけて長時間家の中
 に入れない。
介護・世話の放棄・放任(ネグレクト) ①意図的であるか、結果的であるかを
 問わず、介護や生活の世話を行って
 いる者が、その提供を放棄又は放任
 し、高齢者の生活環境や、高齢者自身
 の身体・精神的状態を悪化させてい
 ること
②専門的診断や治療、ケアが必要にも
 かかわらず、高齢者が必要とする医
 療・介護保険サービスなどを、周囲が
 納得できる理由なく制限する、使わ
 せない、放置する
③同居人等による高齢者虐待と同様の
 行為を放置する
①身体を不衛生なまま放置する、水分
 や食事を十分に与えられていないこ
 とで脱水症状や栄養失調の状態にあ
 る、室内にごみを放置する、冷暖房を
 使わせない等劣悪な環境の中で生活
 させる。
②徘徊や病気の状態を放置する、本来
 は入院や治療が必要にも関わらず強
 引に病院や施設等から連れ去る。
③孫が高齢者に対して行う暴力や暴言
 行為、お金の無心を放置する。
心理的虐待 脅しや侮辱などの言動や威圧的な態
度、無視、嫌がらせ等によって精神的苦
痛を与えること
怒鳴る、ののしる、嘲笑する、侮辱を込
めて子ども扱いする。「意味もなくコー
ルを押さないで」「なんでこんなことが
できないの」等と言う。他利用者に高齢
者や家族の悪口等を言いふらす。意図
的に無視する。高齢者がしたくてもで
きないことを当てつけにやってみせ
る。トイレや食事摂取ができるのに、本
人の意思や状態を無視して職員の都合
を優先させる。本人の家族に伝えてほ
しいという訴えを理由なく無視して伝
えない。本人の意思や状態を無視して
面会させない。車いす移動時速いスピ
ードで走らせ恐怖心を与える。本人の
意思に反した異性介助を繰り返す。
性的虐待 本人への性的な行為の強要、性的羞恥
心を催すあらゆる形態の行為
性器等に接触する、キスや性的行為を
強要する。性的な話を強要する。わいせ
つな映像や写真を見せる。排泄や着替
えの介助がしやすい目的で上半身や下
半身を下着のままで放置する。人前で
排泄行為やおむつ交換をする、その場
面を見せないための配慮をしない。
経済的虐待 ・本人の合意なしに、または判断能力の
 減退に乗じ、金銭や財産を本人以外
 のために消費すること
・本人の生活に必要な金銭の使用や、本
 人の希望する金銭の使用を理由なく
 制限すること
事業所に金銭を寄付・贈与するよう強
要する。金銭・財産等の着服・窃盗等。
(無断流用、お釣りを渡さない)立場を
利用して「お金を貸してほしい」と頼み
借りる、日常的に使用するお金を渡さ
ない。

※虐待や被虐待者の「自覚」は問いません
 上記のような虐待を行っている人(虐待者)にその行為が高齢者虐待にあたるという自覚がなか
ったとしても、その行為の結果として高齢者本人の権利が侵害される状態となっていれば、それは
高齢者虐待とみなし支援を行う必要があると言えます。
 被虐待者の心理として、自分が不当・不適切に扱いを受けていると感じながらも、親族をかばう
などの気持ちから、第三者に対してはこれを認めない場合があります。また、長年の家族関係の中
で、客観的には高齢者虐待に当たるほどの不当・不適切な扱いを受けていても、それが日常であり、
あきらめてしまっている場合もあります。さらには、上記のような行為を虐待者により受けている
人(被虐待者)が、自分が虐待されていると自覚していない場合があります。被虐待者や虐待者が
虐待の事実を認めない場合や、被虐待者が虐待者から虐待を受けているという自覚がない場合であ
っても、客観的にみて高齢者の権利が侵害されている状態にある場合には、高齢者虐待に当たるも
のとして支援を行います。

3.セルフネグレクト(自己放任)
 高齢者が、認知症やうつなどのために生活に関する能力や意欲が低下し、自分で身の回りのこと
ができないなどのために客観的にみると本人の人権が侵害されている場合があります。
 このように、自己の身体的・精神的な健康の維持にとって必要な医療や衣食住を拒むなど、生命
や健康に悪影響を及ぼす状況に自ら追い込むことを「セルフネグレクト(自己放任)」と言います。
 セルフネグレクトは、高齢者虐待防止法における虐待の定義には定められていません。しかし、
高齢者の尊厳を守るという観点から、支援を必要としているという「状態」に着目し、虐待の一種
として捉え適切な対応を図っていく事が求められます。

第2章 高齢者虐待に気づいたら

1.市町村への通報
 1)養護者による高齢者虐待の防止
 高齢者虐待防止法では、高齢者虐待を発見した者は高齢者虐待を受けている高齢者の生命や身体
に重大な危険がある場合は、市町村への通報が義務付けられています。これを「通報義務」と言い
ます。
 また、生命又は身体に重大な危険が生じていない場合でも、市町村に通報するよう努めなければ
ならないとされています。これは、本人や家族が虐待ではないと否定した場合や、虐待と言えるの
だろうか…?と判断に迷う場合でも窓口に相談することが望ましいと解釈されます。これを「努力
義務」と言います。

 2)養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止
 養介護施設従事者等(施設職員)が、養介護施設又は養介護事業において、施設職員等による虐
待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、市町村に通報しなければならないと定められてい
ます。
 また、養介護施設従事者等(施設職員)以外の者で、施設職員等による高齢者虐待を受けたと思わ
れる高齢者を発見した者は、高齢者虐待を受けたと思われる高齢者の生命又は身体に重大な危険が
生じている場合には、速やかに市町村に通報しなければならないと定められています。
 高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じていない場合でも、市町村へ通報する努力義務が明記
されています。

2.守秘義務
 1)高齢者虐待対応者における守秘義務
 高齢者虐待を発見し通報しようと思った際に、「通報したことを知られたくない」「通報者が自分
だと特定されては困る」など、通報を躊躇する場合もあると思います。通報や相談を受けた市町村
の職員には、通報者や相談者が特定されるような情報を漏らしてはいけないという守秘義務が定め
られています。さらに、高齢者虐待事例の関係職員にも同様に守秘義務が課されています。
 また、施設の職員等から自身が勤務している施設で起きた高齢者虐待について市町村に通報があ
った場合も同様に、通報者が特定されるような情報を漏らしてはいけないとされています。
 2)通報と個人情報保護
 個人情報保護により、「通報して良いのだろうか…」と通報することをためらう場合があるかも
しれません。しかし、高齢者虐待防止法第7条第3項に、通報義務は守秘義務よりも優先される
旨が規定されていますので安心して通報して下さい。
 個人情報保護法では、あらかじめ本人の同意を得ず個人データを第三者に提供してはならな
いとされていますが、人の生命・身体又は財産の保護のために必要である場合で、本人の同意を
得ることが困難であるときは例外とされ、本人の同意がなくても第三者に情報を提供できるとさ
れています。この規程は、民生委員等の守秘義務が課せられている役職に就く者にも適用されま
す。
 高齢者虐待事例は、当該高齢者の生命や身体・財産の保護が必要であると考えられるため、こ
の例が規定に該当するものと考えられます。

 (個人情報保護法第23条)
 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、
 個人データを第三者に提供してはならない。
 一)法令に基づく場合
 二)人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得る
   ことが困難であるとき。

 養介護施設従事者等は、通報したことを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けないことが定
められています。(第21条第7項)
 また、公益通報者保護法(平成18年4月施行)においては、労働者が事業者内部において法令
違反が生じ、または生じている旨を通報した場合の①解雇の無効②その他不利益な取り扱い(降格、
減給、訓告、自宅待機命令、退職の強要等)の禁止が定められています。

3.虐待発見時の対応
〇虐待もしくは虐待が疑われる事案を発見した場合には、速やかに組織的な対応をとること。また
 行政に通報、相談すること。
〇施設・事業所においては、虐待発生時もしくは疑いのあるケースを発見した場合には速やかに誠
 意ある対応や説明を行うなど、利用者や家族に十分に配慮すること。また、プライバシー保護を
 大前提としながらも、対外的な説明責任を果たすことも必要となります。さらに発生要因を十分
 に調査・分析するとともに、再発防止に向けて組織体制の強化、職員の意識啓発等について、一
 層の徹底を具体的に図ることが迅速な対応を可能とします。また、生命と身体の安全を第一に考
 え、行政や相談支援事業者と十分に連携を図りつつ、発生時の連絡ルート、被害者の緊急的な保
 護を含めた対応方法について日頃から連絡・調整を行い、あらかじめ定めておくように努めます。

4.虐待発生後の対応
〇虐待の発生後「被害者である利用者」「虐待を行った者」双方への視点を持って対応することが必
 要です。
〇生命と身体の安全を十分に確保した上で落ち着きを取り戻すための支援、もしくは一日も早く安
 心した生活を取り戻すために必要な取り組みを行うことが重要です。
〇施設・事業所の職員が虐待を行った場合には、家庭生活上の不安や職場における人間関係等のト
 ラブル、さらには日々の業務に対する過剰感等が虐待に至る要因として考えられます。これらの
 状況について日常的に把握できるような環境や仕組みを整えるとともに、発生後はその他の職員
 の状況に改めて配慮する取り組みを進めます。
〇家族による虐待の場合、その背景には、利用者と家族の人間関係や地域社会での家族に孤立感や
 孤独感、過重な介護に対する負担、経済的な困窮や家族自身が身体的もしくは精神的な支援を必
 要としているような場合もあります。




(附則)
このマニュアルは、令和8年7月1日より施行する。